ゆかめ線

雑記と日記と ときどき旅行記

はちおうじ三湯めぐり① 「松の湯」

 

銭湯に行きたい。

 

私は旅先で銭湯に入るのが好きだ。旅先の知らない土地で、現地の人しか出入りしないような場所に行くことで、旅という非日常的行為の中に他人の日常が交錯する・・・とかいうとなんか大げさになってしまうけれど、そんなニュアンスの何かを求めて、旅先での銭湯利用は意識してやっているところがある。

 

ただ、これはあくまで旅先での話。思い返してみれば、こうして旅行中に銭湯へ足を運ぶことは数あれど、日常的な生活圏内の中にある銭湯には一度も行ったことがないことに気が付いた。

いや、「公衆浴場」という広い意味で捉えれば、八王子みなみ野の「竜泉時の湯」や高尾山口にある「極楽湯」には何度も行ったことがある。けれども、これらはどちらかといえばアミューズメント施設に近いようなもので、もっとこじんまりとした、それこそ壁に富士山が描かれているようなお風呂屋さんには足を運んだことがなかった。

 

自宅の風呂は風呂と言うほど大きくなく、専らシャワーを浴びるのに抱き合わせでついてくる浴槽程度の大きさで、足を伸ばして湯に浸かるようなことはできない。なので定期的に大きな浴槽のあるお風呂屋さんへと出かけたくなる。それでよく利用していたのが先に挙げた「竜泉寺の湯」「極楽湯」であった。

しかしながら、この両者ともメジャーな施設なだけあって色々と設備が整っており、料金もそれなりにかかる。あまりおいそれと短期間に通えるものではない。足を伸ばして湯に浸かるだけでいいので、もう少し手ごろに行けるような銭湯が近所にないものかと思い、調べるに至った。

 

 

www.city.hachioji.tokyo.jp

 

便利なことに、八王子にある銭湯についての情報が、市の公式サイトに載っている。

このページによれば、市内にある銭湯は3つ。小門町の「松の湯」、本町の「福の湯」、子安町の「稲荷湯」である。それぞれ定休日が異なるが、営業時間は14時~23時半と同じようだ。

どの銭湯も八王子駅からのアクセスが楽そうである。これらが八王子駅前!恩方!南大沢!くらいに散らばっていたら一番近そうな一軒くらいしか行かなかっただろうが、これなら全部訪れてみても面白いのではないか。そう思い、これから暇なタイミングを使って、三湯すべてをまわってみることにした。

今回はその第一弾、八王子市小門町の「松の湯」さんへと向かう。

 

松の湯 (八王子市小門町)

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八王子駅北口より出るバスに乗り、甲州街道にある「織物組合前」バス停で下車。近くの交差点から南へ入ると、住宅街の暗がりの中にひときわ明るく照らされた建物が見える。

銭湯らしい趣のある佇まいながら、その外観はとてもきれいだ。調べたところによると、創業は1954年だが、店主の世代交代を経て2019年にリニューアルオープンしたとのこと。

松の湯(八王子市|八王子駅) 廃業危機を乗り越え新装開店 温かい色合いの空間に生まれ変わった銭湯 | 【公式】東京銭湯/東京都浴場組合

 

暖簾をくぐり中へ入る。

靴を脱ぎ、券売機へと向かう。入浴料金は大人ひとり470円だ。東京都の銭湯はみな同じ値段で、これは省令によって都道府県ごとに決められているらしい。貸タオルもあるので、手ぶらでも来れることがわかった。加えてある事実に気が付いた

 

「サウナがある」

 

サウナのない銭湯というのも珍しくないので、正直ここにもはないと思っていた。ただ湯に浸かるだけでいいやという気持ちで来ていた。しかしサウナがあるということは、サウナと水風呂を交互に浸かる気持ちのいいアレが楽しめるということだ。単に私の下調べの甘さが露呈してしまっただけだが、これはうれしい誤算である。

料金は300円。今財布に入っている現金は800円程度だったので、470円と300円で合わせて770円、やった、サウナにも入れるじゃん。そうして硬貨を投入しようとしたところだった。また新たな事実に気が付いた

 

「風呂上がりに瓶ジュースを飲むやつができない」

 

風呂上がりの瓶ジュース。それはこの世で最も気持ちのいい行為100選にも選ばれた、もう最高に気持ちのいい営みである。これをするために風呂へ入るといっても過言ではない。

風呂に浸かっておいて、その上がりがけに瓶ジュースを飲まないということは、授業を履修しておいて多淫意を取得しないのと同じである。それはただの自由聴講だ。受けるからには単位を履修しておきたいではないか。

 

サウナと瓶ジュース、2つを天秤にかけ、どちらを選ぶべきかしばらく悩んだ。

 

 

めちゃくちゃ悩んだ。3秒くらい悩んだ。

 

 

結果、後者を選ぶことにした。サウナは次の機会に取っておこう。

こうして、入浴料400円だけを投入し、出てきた券を受付に渡していざ入浴である。受付の両脇に、男女それぞれの脱衣所へつながる暖簾が下がっている。いかにも銭湯っぽい。脱衣所もきれいだった。暖色系でまとめられた内装は温もりが感じられて好きだ。

 

服を脱いだ後はお待ちかねの風呂である。戸を開けて中へと進む。

暖色系でまとめられたレンガ調のタイルと、壁などに配された白いタイルのコントラストが美しい。そして奥には小さなタイルを用いて描かれた富士山が堂々と構えている。

リニューアルに伴い、色んな設備が新しいものに交換されたかと思いきや、いたるところに昔ながらの銭湯っぽさを感じさせる要素が感じられる。洗い場の蛇口は押し続けてないとお湯が出ないタイプで、正直この時代には不便に思われるが逆にそれがいい。そして湯を注ぐ先はケロリンの黄色い桶である。たまらん。

 

洗い場で身体洗いを済ませた後は入浴となる。

室内の浴槽は全部で3つ。高濃度炭酸泉とジェットバスつきの白湯、そして水風呂だ。これらの浴槽が所狭しと肩を並べている。どれもスーパー銭湯などのような広さがあるわけではなく、このなかで一番広いと思われる炭酸泉の浴槽でも、大人が5人でも入ればいっぱいになるんじゃないかと思う程度だった。このこじんまり加減も銭湯っぽくて好きだ。まずは空いていたジェットバスつきの白湯に浸かることにした。

 

白湯のジェットバスは少し水深の深い、どのお風呂屋さんにもみられるような一般的なものだ。3人分のスペースが用意されており、このうち1つは腰掛けることのできるタイプとなっている。お店のパンフレットによれば、この浴槽では地下からくみ上げた天然水を沸かしてお湯に浸かっているらしい。

 

やはり開放的な風呂は良い。家の狭い浴槽で身体を折り曲げながら湯に浸かるのとでは気持ちよさが全然違う。だから定期的に外のお風呂屋さんに出かけたくなる。

 

足を伸ばして、肩まで湯に浸かって、後は何も考えずにぼーっと過ごすだけ。

 

あーーーーーー

 

 

 

あーーー‐

 

 

 

 

 

あーー

 

 

 

 

 

癒される。

 

 

 

 

さて身体も温まってきたことだし、白湯はこの辺にしておいて、今度は炭酸泉にでも入ろうか。

 

炭酸泉に足を突っ込むと、そのぬるさに少し驚いた。どうも白湯より温度が低めに設定されているらしい。これで身体が温まるのかいなと思っていたのだが、そんな疑念はすぐに払拭された。炭酸泉は長く入ることでその効果をより良く得られるという。しばらく入っていると、さっきまで感じていたぬるさはどこへやら。身体の芯からじんわりと温まってくる様子がよくわる。例えるなら生姜湯を飲んでほっと一息ついた後のような、あのじんわり具合だ。

 

私は後悔した。もっと早く知るべきだった。こんな居心地のいい銭湯が生活圏内にあったことを。八王子に住み始めて4年くらいか。もしかしたら今後1~2年で他所へ転居することもあるかもしれないのを考えると、ちょっと今更なところがあった。

 

さて残す内風呂は水風呂のみである。ただ水風呂はサウナと交互に入るから気持ちいいのであって、それ単体で入ろうという気分にはならなかった。ということでこの銭湯の湯にはすべて浸かったことになる。適度に温まったら帰ろうか。などと考えていると、サウナのそばにある扉から外に出ていく人の姿を見かけた。あ、これもしかして露天風呂があったりして。

 

露天風呂はあった。正直、早々に2つの内風呂を堪能してしまい、今日はもう十分かな、いつ上がろうかと考えていたところだったので、ここにきてのこういった新しい発見は嬉しい。

「日替わり薬湯 露天岩風呂」と書かれた扉を抜けた先には、これまたこじんまりとした空間の中に、茶色く濁った薬湯をなみなみとたくわえた薬湯がもわもわと湯気を立ち昇らせていた。なかなかいい雰囲気だ。岩風呂の脇には「漢方行者の湯」だったか、そんなような文言が書かれた木札が貼り付けられていた。これが今日の薬湯のようだ。

 

薬湯の効能はよく覚えていないが、中の風呂に比べて温度が若干高いように感じる。先に炭酸泉などで身体は温まっていたが、それはどちらかといえばポカポカ陽気の感覚に近い。対してこちらの薬湯は熱湯と言うほどでもないが、外気との温度差がそう感じさせるのだろうか、どちらかといえばアツアツといった感覚に近いように思えた。

 

ここでがつんと温まってから水風呂に入ったら気持ちがいいんじゃないかと思い、続けて水風呂に浸かった。なるほどサウナ抜きにしてもそれっぽい気持ちよさを享受できることがわかった。こっちもアリだな。

やはり最初は冷たくしんどいように感じるのだが、外湯と水風呂の往復を何度か繰り返しているうちに、だんだんとしんどさが気持ちよさへと様変わりしていく。ここまでくると、もう水風呂抜きには外湯へ入れない身体になっている。

 

水風呂の真向かいにサウナがある。

冒頭に記した通り、サウナを利用するには300円の追加料金が必要だ。しかし券売機の前で私は思っていた。浴室とサウナが併設されていたら、サウナの利用の有無をどうやって判断するのだろうか。正直一度浴室に入ってしまえば、その足でサウナを利用してもわからないのではないか。

その答えはサウナの扉を見てすぐに判明した。サウナの扉には鍵がかかっていて、サウナ利用者にのみその扉を開ける鍵が渡される。それによってサウナ代を払っていない利用者が入ることを防いでいるのだ。よくできた仕組みだなと感心したものだが、銭湯業界にとっては至極当たり前のシステムなのかもしれない。

 

そんな具合に外湯と水風呂のシャトルランを何度かこなしたのち、最後に一度だけ炭酸泉に浸かってから上がることにした。さてそろそろ上がろうかという段階になって、いろいろな風呂が名残惜しく感じ、ついつい最後に入り納めをしてしまうのがいつもの癖なのだ。

 

あ~、良いお湯だった。

風呂を上がり、身体を拭いて服を着る。

 

受付前には待合所みたいなスペースがあって、くつろげるようになっている。何人かがそこに腰かけていた。脱衣所から出てきた人が、先に座っていた人にあいさつをする。利用者の大半が常連なのだろうか、受付の人と世間話をする人も多い。

 

さて最後に執り行うべきは「風呂上がり瓶ジュースの儀」である。これは先述した通り、風呂上がりの火照った身体に瓶ジュースを流し込むと大変気持ちがいいといったものである。これをやらなければただの自由聴講だ。単位が取れない。

 

自販機で瓶ジュースを買う。今日はマミーにした。

蓋を開けてゴクゴクと飲む。

 

ん~~、うまい!

やはり風呂上りには瓶ジュースを飲まなければならない。古事記にもそう書いてある。

 

入口の暖簾をくぐって、銭湯を後にする。冬の夜中だというのに全然寒く感じない。身体が芯から温まっている証拠だ。今日は来てよかった。いいお湯だった。

 

 

こうして、定期的に涌く、私の風呂欲は満たされたのであった――

 

 

おしまい(第二弾へ続く)

最後までお読みいただきありがとうございました。

△ 内容は2020年1月末のものです。最新のものとは異なる場合があるかもですが、その点はご容赦ください。

△ 同じ内容のものを、noteにも投げてみました。場所によって得られる反応が違うのか気になった程度の実験要素なので、あまり深い意味はないです。

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